企業のための理論は、子育てにも有効|「権限・責任一致の原則」
私(父)には、4歳と2歳の子どもがいます。
あらゆる企業経営理論を学び、実践する傍ら、「はて、これは子どもにも有効ではないだろうか」と思い立ち、実際に使ってみました。
その中のひとつ、「権限・責任一致の原則」について、実践してみた結果をご報告します。
想像を超えた以外な結果が・・・。
権限・責任一致の原則とは
一言でいうと、
役割に与えられる「権限の大きさ」と「責任の重さ」は同一量にしなければならない
という原則です。
たとえば、
「権限はやたら大きいが、責任は負わない」
逆に、
「権限はほぼ無いが、責任だけは負わされる」
このような状態ではモチベーションは上がりませんし、働く意欲が失われてしまいます。
そのため企業は、この「権限・責任一致の原則」に基づき、職員の役割別に、権限の大きさと責任の重さを定めるわけです。
企業での実例 職員採用の超アンバランスな権限と責任
ある企業の話。
人事部のA課長は、求職者を面接し、採用する担当です。
つまり、採用を決定する「権限」を有しています。
このときの権限の大きさを100としましょう。
ある日、新卒学生Bさんの面接を実施しました。
人事部のA課長はこのBさんを大変優秀だと判断し、即採用を決定しました。
配属先は、Bさんの将来性を考え、会社全体の流れを経験することのできる、営業部としました。
さて、営業部に配属となったBさん。
実際に働きはじめてみると、ミスを連発。
しかも態度が粗暴で、相手先からの評判もよくありません。
営業部の責任者Cさんは頭を抱えてしまいます。
人事部のA課長は、なぜこんな人を採用したんだ。
ある日我慢のできなくなった営業部責任者のCさんは、人事部のA課長に苦情を訴えます。
ところが、人事部のA課長は素知らぬ顔でこう言い放ちました。
「私は採用するだけの役割ですので」
つまり、人事部のA課長の、採用に関する権限と責任は、
権限100 : 責任0
と、著しくアンバランスだったのです。
一方、営業部責任者のCさんの場合はどうでしょう。
採用に関する権限は、0です。
それに対し、採用した職員に問題がある場合、人事部のA課長には責任がありませんから、うまくいかなければすべて営業部責任者のCさんのせいです。
具体的には、営業成績が悪化するでしょうから、その責任をとることになります。
まわりからは、「せっかくの優秀な人材を活用できなかった」とまで言われるでしょう。
つまり、営業部責任者のCさんの採用に関する権限と責任は、
権限0 : 責任100
こちらも著しくアンバランスです。
こんな状態で営業がうまくいくわけもなく、人事部のA課長は相変わらず無責任な採用を続け、
営業責任者のBさんは「やってられない」と退職。
営業部の成績は悪化の一途度たどり、会社の利益へ致命的なダメージを与え続けています。
企業での実例 どうやってバランスをとるのが正解?
前述の例でいくと、解決方法は2つしかありません。
人事部長のA課長に相応の責任を取らせるか(権限100 : 責任0 → 100)
営業部のC課長に相応の権限を与えるか(権限0 → 100 : 責任100)
このように「100対100」のような完璧なバランスを作り出すことは困難でしょうが、ある程度この状態に近づけて、状況を改善することは可能です。
たとえば以下のような方法が考えられます。
・面接には営業部のCさんにも参加してもらい、採用に関し一定の権限を与える(権限0 → 80 : 責任100)
・1年間の採用者の定着率が基準より低い場合(離職率が基準より高い場合)、会社は採用の仕方や判断に問題があると判断し、その責任を人事部のA課長に負わせる。(権限100 責任0 → 80)
さて、子どもに使うとどうなる
「権限・責任一致の原則」を、うちの子に使ってみました。
被験者は、
長女A 4歳
次女B 2歳
与える役割は、
車内での「じゃがりこ」管理。
実証実験① 車内のお菓子事情
うちの子はスナック菓子が大好きです。
あまり過剰に与えないように気を付けてはいますが、それでも与えざるを得ないことがあります。
たとえば、車内。
車で遠出する際、2人の機嫌が悪くなったときなど、スナック菓子を食べさせて乗り切る場合があります。
実証実験② 父、じゃがりこを買う
車内でお菓子を与えるとき、散らからず、本人たちも食べやすいもの。
それはずばり、「じゃがりこ」です。
美味しいことは言うまでもありませんが、ある程度の硬さがあり、子どもでもつかみやすい。
Lサイズを買えばある程度の長さがあるので、1本渡すとしばらく食べ続けてくれます。
キャラクターにキリンを採用した理由はよくわからないけど、やるな、カルビー。
ですが、なにせ車内・・・。
後部座席に座る2人に、運転しながら渡すのも危ないですし、かと言って渡すために毎回停車するのも大変。
そこで、思い切ってこの「じゃがりこ」を、カップごと長女Aに渡すことにしました。
実証実験③ 父、長女にじゃがりこを渡す(権限の移譲)
「これを君に授けよう」
私は後部座席に座る長女Aに、じゃがりこを渡しました。
ええっ!? という驚きの表情を浮かべる長女A。
その後、みるみる悪魔のような顔になります。
あのじゃがりこが、夢のじゃがりこが、今、自分の手の中にカップごとあるのです。
そしてさらに信じがたい一言が父から発せられます。
「自由に食べていいからね」
夢か!?
信じられないという表情で手元のじゃがりこを見た後、再び、いや、さきほどよりだいぶ悪い顔になる長女。
ついに今日、私の時代が来たのだ。
実証実験④ 父、長女に分配をさせる(責任の発生)
現在のところ、権限・責任一致のバランスは以下の通りです。
役割「じゃがりこの管理」
権限100 : 責任0
これはいけません。
うまくいくはずがありません。
権限と責任がアンバランスだからです。
足りないものはなんでしょう。
そう、それは、責任の重さ。
そこで父は、こう言い添えました。
「Yちゃん(次女)に、上手に分けてあげてね」
長女Aに、じゃがりこを次女Yに上手に分けるという責任を与えてみました。
実証実験⑤ 長女、使命感に燃える
次女Bに、上手にじゃがりこを分け与えるという責任を課せられた長女A。
一瞬、きょとんとした顔。
結果、どうだったかというと・・・。
長女Aは、じゃがりこ1本を次女Bに渡したあと、ただひたすらに次女を観察。
渡したじゃがりこを、いつ次女が食べ終わるか、見守り続けました。
そして次女Bがじゃがりこを食べ終わったとみると、そっと次の1本を渡し、
「急いで食べたらおなか壊すからね」
と注意したあと、また食べ続ける次女を観察。
途中、自分も数本は食べましたが、「次女に上手にじゃがりこを渡す」とう役割(というか、もう使命)を最優先。
一生懸命じゃがりこを適切なタイミングで次女に渡し続けました。
まとめ
これ以降、他のお菓子についても、車内では長女にお菓子を箱ごと渡し、管理させています。
与えられた役割について責任を課せられたとき、責任と同じ大きさの権限を与えられれば、人はやる気を出す。
先人の見つけた原則は、どうやら正しいようです。
与える役割の種類や、性格、状況によって結果は違うものになるかとは思いますが、企業経営では常識となっているこの原則を利用し、根拠のある子育てをするのも良いのではないでしょうか。